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  この日も早朝から起きて身じまいを整え、山上本堂で勤行をあげます。午前4時には出立するのです。朝一番の体はまだ固く、真っ暗な中を歩くのですから、全身に緊張感が漲ります。約40分、体がほぐれ、早暁の明かりが木々の間に滲む頃、小篠の宿に着きます。ここは真言宗醍醐派(当山派修験)の本拠地です。かつては36の僧坊が並び立ち、多くの僧侶が修行に励んでいたそうですが、今は2坪ほどの本堂と柴灯護摩道場があるだけです。それでも周囲には石組みの跡が残り、山上ヶ岳よりも栄えたという話にも頷けます。
  山中を歩き、阿弥陀森を目指します。ここには南の女人結界門があり、国道169号線にある柏木方面からの登山道にもつながっています。この登山道を少し下ると伯母谷覗と呼ばれる視界の開けた場所があります。厳しい山中の行の途中には、こうした見事な風景があり、心も体も浄化されるようです。神々の棲家とも思える風景に出会うのは、深山幽谷に分け入る大きな魅力のひとつなのかも知れません。
  道を戻り、しばらく歩くと脇の宿。ここでやっと小休止、束の間の休息をとります。大きな杉の木には碑伝(ひで)と呼ばれる木の札が架けられています。札には梵字と願文が書かれ、学僧と呼ばれる修験者はこの札を75靡全カ所へ捧げるために持参します。以前は木に直接釘などで打ちつけていましたが、自然保護の観点から、置くことにしたようです。

ここでも新客の行

修行は新客と呼ばれる始めての参加者を中心に組まれています。1日目の水分神社や金峯神社の蹴抜けの塔、山上ヶ岳での表と裏の行場では新客のみが行を行うことになっています。脇の宿から小一時間歩いた経筥岩でもやはり新客だけが行を行うのです。峰道をそれて絶壁の岩に穿たれた四角の穴まで行きます。ここは役行者が法華経を納めたと伝えられる場所でここにも碑伝が納められ、お経を唱えて戻ります。その間、他の修験者たちは休憩。新客にとってはなかなか大変なようですね。でも今年は台風の影響で道が崩れ、ここまではとても下ることができなかったとか。
午前8時前大峰山脈の主峰のひとつ大普賢岳へ着き、勤行。このあたりから山上ヶ岳が見えます。標高1779mの堂々たる山容に心も清々しくなります。早朝に出立した山上ヶ岳も目の前。松井さんは「あれだけ歩いたのにまだなのか、とか一歩ずつの積み重ねでここまでたどりついたのか、山の深さ、空の広さなどいろんなことを感じさせてくれます」と話されます。
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