1日 | 大和神社ちゃんちゃん祭(天理市) 当麻寺中之坊中将姫展 (当麻曼荼羅など)公開5月20日まで |
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8日 | 新薬師寺修二会(奈良市) 飛鳥寺花会式(明日香村) 東大寺仏生会(奈良市) 興福寺仏生会(奈良市) 白毫寺一切経法要(奈良市) |
11日 | 金峯山寺花供懺法会12日まで(吉野町) 法隆寺夢殿本尊特別開扉 5月18日まで(斑鳩町) |
12日 | 西大寺春の大茶盛式13日まで(奈良市) |
15日 | 当麻寺牡丹まつり5月上旬まで(葛城市) |
17日 | 興福寺放生会(奈良市) |
18日 | 大神神社風鎮祭(薬祭り)(桜井市) |
25日 | 般若寺文殊会(奈良市) 興福寺文殊会(奈良市) |
26日 | 興福寺北円堂特別開扉5月6日まで |
29日 | 談山神社けまり祭(桜井市) 霊山寺バラ園公開6月中旬まで |
爛漫の春、こもりくの初瀬の丘には若菜が萌え、木々も草も花を咲かせています。そんな丘には武勇を誇り、倭の五王と称えられた雄略天皇が愛らしい娘に心を寄せ、家や名前を聞いて求婚しているのです。娘の手には籠とへら。愛する人が持てば籠も“み籠”となり、堀串(ふくし)も“み堀串”となるのですね。好きな人の持ち物は特別な品。ちょうど恋人のなんでもないボールペンが特別なペンに見えるように。
声に出してみると心地良いリズムに古代の大らかな心がしみじみと伝わってくるようです。当時、名前を知らせるというのは求婚に応じ、承諾したこと。突然現れた天皇の思いがけない告白に驚き、じっと立ちすくみ、答えられずにいる娘の姿が目に浮かびます。のどかな春の日差しの中、場所はこも隠りく国の初瀬、天皇が娘へほのぼのとした恋心を打ち明ける、そんな光景から万葉集は始まるのです。初瀬にあったという朝倉の宮はどこにあったのかはっきりとはしませんが、桜井市朝倉の天ノ森の丘にあった伝えられています。
第21代天皇である雄略天皇は広大な前方後円墳で知られる仁徳天皇の孫で允恭天皇の皇子。兄弟たちを殺して大君となった雄略天皇は古代に強力な権力を持つ勇敢で荒々しい気性だったようです。その反面、猪に追われて木の枝に登り、枝が折れないようにという歌を残すなど愛嬌も感じられます。
“英雄色を好む”の例に漏れず、やはり恋多き人生を送りました。古事記にはあか赤いこ猪子の話が記されていることをご存知の方も多いのではないでしょうか。
ある時、美しい娘を見かけた天皇は名前を聞き、必ず迎えに来ると約束をします。赤猪子だと名乗った娘はそれからひたすら迎えを待ちますが、天皇はすっかり忘れていたのです。嫁ぎもせずに待ち続け、80歳になった赤猪子は、このままでは気持ちが晴れないと天皇を訪ねます。今はすっかり年老いた娘は、姿も変わってしまった今となっては、仰せを頼みにはできませんが、せめて私の心だけは伝えたくて、と言うのです。天皇は赤猪子の言葉を聞いて、愛おしくも哀れに思い、歌を贈ります。ちょっと美しい娘を見れば、すぐに求婚していたのですね。古代のおおらかな恋愛は万葉集の大きな魅力なのですが、巻頭を飾る堂々たる求婚の歌が相聞ではなく雑歌に入っているのはなぜでしょう。
それは後半、大和の国はすべて私のもの、どこまでも治めているのがこの私だよ、と宣言しているからだといわれています。天皇の力を高らかに歌うことが、歌の本意だからでしょう。
万葉集は、古代の人々の息づかいそのままを私たちに伝えてくれます。春野菜が出回る季節、「籠もよ み籠持ち」の歌を思い出しながら味わってみましょうか。