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平城遷都1300年祭

 平城宮跡で開催中の遷都1300年祭はなかなかの賑わいです。例年、ゴールデンウィークが終わると静かな雰囲気になるのですが、今年は違います。駅周辺にたくさんの人が行き交い、ずっとゴールデンウィークが続いているみたいです。電車から平城宮跡を見ると、色とりどりに人々の姿がみえますが、これだけ広い会場ですから見かけより、人出はずっと多いのではないでしょうか。
  ゴールデンウィークの最中に行った知人の話では、日陰が少なく、自販機も少ない上に売り切れ続出で困ったと話していました。これからお出かけの時は帽子や日傘、飲み水を用意してお出かけください。そうそう、急な雨の対策も必要かも知れませんね。何せ雨宿りの場所も少ないし、会場が広いのでたどり着くまでに濡れてしまいそうです。備えあれば憂いなし、ですよね。
  それでも、1300年の時を実感できる貴重な機会ですから、何度でも通って奈良時代に思いを馳せてみたいものです。結構人気なのが遣唐使船。長さ30m、マストの高さ15mの船は思ったより小さく、命をかけた旅へと向った人々の勇気に感動したと聞きました。大海を隔てた日本と中国の架け橋となったのが遣唐使たちです。長期留学でさまざまな文化を学び、帰国後は国政の中枢をになって後世に伝説を生んだ吉備真備。希望に燃えながらも故郷平城京を思いつつ唐の地に没した井真成。この日本人留学生はつい最近まで存在さえ知られていませんでした。対照的な二人の背後には数千人にも及ぶ遣唐使たちがいたのです。

奈良国立博物館「大遣唐使展」6月20日まで

 遣唐使たちは御蓋山や海龍王寺で航海の安全を祈願し、船に乗ったのだと伝えられます。その麓にある奈良国立博物館では、6月20日まで「大遣唐使展」が開催中。
  立志伝中の人吉備真備を描いた「吉備大臣入唐絵巻」がボストン美術館から里帰りしています。吉備真備は2度も唐へと渡り、2度目には鑑真和上を伴って帰国しています。この絵巻は平安時代に描かれたものですが、絵巻の白眉として高い評価をえています。実際、人物の生き生きとした表情が面白いほどです。アニメの萌芽はすでにこの頃から?と思ってしまいました。この絵巻はボストン美術館に行けばいつでも見られる、というものでもないそうです。遷都1300年祭を記念して27年ぶりに里帰りした絵巻、ぜひこの機会に。
  国宝級の絵巻がなぜボストン美術館にあるのでしょう。これは、大正12年、若狭酒井家から売りたてに出ます。この年は関東大震災が襲った年です。美術品に目を向ける人も余裕もなく、翌年、ボストン美術館へと渡ってしまいました。この仲介をしたのが富田幸次郎で後にボストン美術館の東洋美術部長になる人です。混乱する東京で埋もれるよりは、との思いからだったようです。昭和8年、この絵巻がボストン美術館に所蔵されていることが世に知れ渡ります。マスコミでも大きく取り上げられ、日本にあるはずの絵巻がなぜ、と騒ぎになったとか。富田は美術界から国賊呼ばわりされてしましました。後年、長らく名品を救ったのにと富田は悔しがったといいます。このことがきっかけとなり、「重要美術品ノ保存ニ関スル法律」が成立したのです。
  名品には歴史が刻まれているものですが、大きなエポックメイキングとなった作品でもあるのです。
  もうひとつの注目は仏像の日唐共演です。薬師寺の聖観音菩薩立像と観音菩薩立像。同じ時代に作られた仏像の夢の共演として注目を集めています。聖観音菩薩は日本製の銅造、観音菩薩は中国製の石造です。薄い衣を通して脚のラインがうかがえるところや直立した姿勢、衣文の表現が共通しており、薬師寺の聖観音の源流との位置づけされ、研究者は常に比較してきたそうです。石造の観音菩薩は日本初公開で良く似た二つの像が並ぶのももちろん初めて。眼差しや立っている体勢には違いがあって、聖観音はやはり日本人好みになっているのかも知れません。
  命をかけて唐へ渡った人々は何を伝えたかったのでしょう。261点もの文物の展示は「大遣唐使展」の名にふさわしい充実ぶりです。
最初からじっくり見て回ると体力、気力、集中力の限界がきますから、目標を決めて飛ばしながらご覧になった方がいいかも知れません。ターゲットを決めてじっくり見ると何かが見えてくるのではないでしょうか。
  地下通路では「吉備大臣入唐絵巻」のハイビジョンによる上映、解説がありますからこれも利用しましょう。

遷都1300年祭ならではの夏の催し

今年の奈良はさまざまな催しもので目白押し。寺社の特別拝観や講演、シンポジュームなど枚挙にいとまがない位です。 その中で7月と8月の毎週土日に開催されるユニークな企画があります。
「早起き・特別な時間 神職が案内する朝のお参り」春日大社主催
早朝6時30分に春日大社一の鳥居集合
参加は無料で申し込みの必要もありません。
表参道から飛火野、若宮、御本社などを一時間かけてめぐります。神職による案内付。 一般にガイドブックでは紹介されていないマル秘スポットを教えてくれるとの情報もあります。 もちろん信仰の話や歴史エピソードなど楽しいお話が聞けそう。夏の早朝、木立に囲まれた清らかな境内を歩けば、身も心も浄化されそうですね。木が枯れることを“けがれる”として太古から森を大切に守ってきた神社の杜。木が茂ると水が湧き、命を育むという当たり前のことを忘れかけて突き進んだ20世紀。21世紀は自然や環境がクローズアップされてきましたが、 神社では千年もの間変わらず、木には神が宿ると注連縄を張り、大切にしてきたのです。
 ある美術史家が書いていましたが、「繁栄したマヤ文明が突然のように滅びたのはなぜかというと結局は森林伐採が土地を荒廃させ 、再生産を不能にしたからだ。インダス文明の急な滅亡も最大の要因は建築用の煉瓦を焼くために樹木を濫伐したためである イースター文明が忽然と滅びたのも巨大石造の制作と人工増加のため、大量の木材を消費した結果、島の土壌を洗い流し、 農地の生産力がなくなったからである」と。世界中をめぐって調査した人の言葉ですから、説得力があります。
 日本人は一木一草にも命が宿るという信仰を得たからこそ、現代まで生き延びてきたのかも知れませんね。
 夏、緑はいよいよ深みを増して茂り、蝉時雨が響きます。これは全て生き物の力強い息吹。もっとも、山道では蛇に出会ったり、蚊に刺されたりもするし、庭の雑草も逞しくなる季節ですけれど・・・。1300年ならではの夏を元気に過ごしましょう。



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