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暮らしの歳時記2012夏

今年の天文現象

  5月21日は、日本中が金環日食のニュースで湧きました。専用の眼鏡でも長く見続けないで、とメディアでは何度も注意されましたけれど、太陽に重なっていく月は目が離せない魅力がありました。刻々と過ぎていく時間は目には見えません。時計の針の動きでしか確かめられませんが、太陽と月と地球が刻む時間がこの時は目に見ることができました。太陽に月が迫り、重なり、そして離れていく。太陽系が生まれてこの方、ずっとこんな天文現象を繰り広げてきたのだと思うと何か広大な世界を感じてしまいました。
  天文学的数字というと考えられないほどの数の例えで使います。以前、新聞で「へびつかい座SR24」の観察で惑星として成長する可能性について書かれていました。それには“主星の南に1600天文単位の”腕“が伸び、惑星の材料となるガスやちりを盛んに吸い上げている」という記事を読みました。その時、初めて天文単位という存在を知りました。1天文単位とは地球と太陽の距離のことで1.5億キロだそうです。天文学では太陽と地球の距離がひとつの単位になっているのですね。天文学の面白さはその計り知れないスケールだと思います。ちなみにただいま成長中の星の年齢は500万年。人間の寿命の何と可愛らしいことでしょう。
  金環日食の余韻覚めない6月にも天空では星による現象が繰り広げられます。
まず4日には全国で部分月食。夕方7時前に始まり、8時頃ピークを迎えるということです。月の約38%が欠けてみえるようですよ。
  6日は世紀の「金星の太陽面通過」。金星は地球の内側を回る惑星です。その金星が太陽の前を通過しますから、黒い影がゆっくり移動していくのが見えるとのことです。前回は2006年6月だったそうですが、全国的な書く天候のために観測できませんでした。ちなみにこれは明治4年(1874)以来130年ぶりのことだったとか。次回は2117年12月といいますから、文字通り世紀の天文現象。専用眼鏡はこの時までぜひとっておきましょう。
  8月14日は金星食。金星はひときわ明るい星ですから、月と金星が近づくだけでも魅力的です。5月までは宵の明星として夕方、西の空に輝き、三日月とも出会いますが6月以降は明けの明星として明け方のご出演となります。そして8月には細い月に金星が隠されていく「金星食」となるのです。金星が月に近づき、やがてまるで月の裏側へでも回っていくかのように消えます。そして、再び明るさを増しながら現れてくるのですが、これはまた、息をのむほどの美しさといわれています。この頃はペルセウス座流星群が活動する時期ですから、流れ星とともに鑑賞できるかもしれません。
  今年は天文の舞台ではさまざまなプログラムが組まれているようです。いい機会ですから、空を見上げてみてはいかがでしょうか。国立天文台のホームページは要チェックですね。


夏の星空

  こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ、この三つの星が形作る夏の大三角形が見える季節です。ベガとアルタイルが七夕伝説の織姫と彦星。7月7日の夜、たくさんのカササギが翼を広げて天の川に橋を架けます。でも雨が降ると翼の濡れたカササギは飛べず、二人は会うこともできません。新暦の7月7日といえば本州各地はまだ梅雨の只中。雨の時が多いので、本当に可哀想。こんな不都合になったのは、旧暦の日付をそのまま新暦に当てはめたから。旧暦であれば8月になることが多いのに。仙台などでは8月7日、旧暦での七夕を行う地方もありますから、天候にさえ恵まれれば、新暦、旧暦と2,3度会えることになるのでしょうか。
  さて、星占いなどで用いられる誕生日の正座は太陽が天を通る道、黄道にある星座です。太陽がいる位置にある星座がその月の星座になっているために今月の星座は太陽の向こう側にあり、見えません。誕生日の星座が見られるのは誕生日の3〜4ヶ月前ということになるのだそうです。夏の星空で見える星座はてんびん座、さそり座、いて座。冬生まれの方は是非夏の夜空で自分の星座を確かめてみてください。
  てんびん座はおとめ座の女神が持つ正義のシンボルといわれています。古代ギリシアでは秋分の日の太陽がこの星座を通過したことから昼夜の長さが同じという意味もあるようです。
  さそり座は海の神ポセイドンの息子、オリオンにゆかりがあります。オリオンは優れた狩人だったのですが、乱暴者でもありましたから、神々は大サソリを使い、その毒で倒したのです。オリオンはサソリを嫌って冬の空に姿を現しますよね。
  いて座の物語はちょっと悲劇。半人半獣のケンタウロスの一族は粗暴でしたが、ケイローンは一人洞窟に暮らす賢人として知られていました。でも争いに巻き込まれて勇者ヘラクレスの放った弓が当たり、命が落としたのです。神々をその死を悼んで星にしたとか。  星座の物語はギリシア神話がもとになっています。天体のさまざま現象や形からこんなにも豊かな物語を紡いだ人々の想像力に拍手!ですね。今年は天体から目を離せません。こんな時にギリシア神話を繙いてみてはいかがでしょう。星空がもっと身近に感じられるかもしれません。


古事記と星

  今年は古事記1300年。古事記では星の神がいるのでしょうか。不思議なことにほとんど出てこないのです。イザナギとイザナミは二人でたくさんの神々を産みますが、星の神は見当たらないようです。月の神は生まれるのですが、何といっても一番重要なのはアマテラスです。
古代、稲作が伝えられてからの日本人は農耕民族として生きてきました。日照時間と農作は深くかかわり、太陽の恵みでこそ生き延びることができました。日の出と共に起き、日没と共に休む暮らしの中で、星の存在は重要ではなかったのかも知れませんね。
  狩猟民族であれば、自分たちのいる場所は星によって分かるわけですから、とても重要な要素だったのでしょう。
  同じアニミズム、多神教でも生まれてくる物語は随分違うようです。


夏の魚

  季節感を喜ぶのが日本料理。日本人の蛋白源として食卓に上ってきた魚、近頃その栄養価が見直されています。一時期魚離れが心配されましたが、四方を海に囲まれ、海の幸に恵まれてきたのですから、大切に味わいたいものです。しかも魚には野菜と同じく旬がありますから、味の良い時に安く手に入れられるのも嬉しいところ。
  初鰹を喜んでいたとおもったら、6月になると鮎の解禁。吉野川でも釣り糸を垂れる人の姿が見られます。五條市では吉野川で古くから伝わる梁漁が行われ、河川敷では鮎の塩焼きがいただけます。天候によって収穫量が左右されますが、それも自然なこと。土用になればやはりウナギですよね。でもそのウナギ、世界的に減少しているとのニュースが報道されました。養殖しようにも稚魚がいないというのですから大変です。生態不明というウナギにいったい何が起こっているのでしょう。暑気払いに欠かせないウナギ、今年はほんの一切れということになりそうです。
  時折スーパーでも目にすることにあるトビウオも夏の魚。玄界灘から日本海をヒレをさながら翼のように広げながら北上して島根の沿岸までやってくるそうです。淡白な白身の刺身や生姜醤油をかけた塩焼きがおすすめですが、小骨に注意。イサキや太刀魚も食欲の落ちる夏には美味しいものです。
  祇園祭のころには鱧。湯引きの洗いを梅酢で、椀種に、胡瓜との酢の物にと使い勝手のいい魚です。



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