3月1日からは東大寺二月堂でお水取りの行が始まります。いよいよ春開く季節。大気はやわらかく湿り気を帯び、木々の芽が日々膨らみますね。予感だった春は確かな温もりとなって風が運んでくるのです。そんな3月は区切りの時。年度が変わり、学年が変わり、そして卒業。人生にはさまざまな節目がありますが、卒業も大きな意味を含みます。新しい一歩を踏み出すための大切な儀式でしょうか。
昨日まではいやでも登校しなければならなかったのに、明日からは自分の席も、無くなってしまいます。クラスメイトが全員集うのもこれが最後。そう思えば学校の何もかもが懐かしく思われてきますよね。さまざまな思いを抱いて卒業する人に贈るのは、節目を迎えたことへのお祝いの心。日本人は古くから心を伝えるために物やお金を丁寧に包み、水引を結んで渡してきました。単なる物や金銭のやり取りではなく、そこには心を包み結んできたのです。
熨斗袋にかける水引の歴史は古く、遣隋使だった小野妹子が日本へ戻った時、隋からの答礼品に紅白の麻紐がかけられていたことから始まったといわれています。以後宮中での儀式でも使われ、発達していきました。水引は陰陽五行ともかかわりながらさまざまな約束ごとが定められたようです。陰陽では左側が陽にあたるから白や銀などの淡い色、右側は陰なので赤や黄色、黒などの濃いと決められました。結ぶ水引の数は奇数でこれも陽数にこだわったから。3本は5本を簡略化したもので、7本は5本をより丁寧にしたもの。10本用いるのは偶数ではなく5本を2倍にしたものだといいます。9は陽数の極まったもので本来なら最も重要視するはずですが、「苦」に通じることから忌み嫌われるようになりました。5本を基本にするのは、手の指の数という説もあります。贈り手と贈られる手を互いに結ぶから、ということですがこれもほほえましい説ですね。
水引は縒った紙に水糊を引くことからの呼び名だとか。今は色も多様で紅白のほかにも金銀の箔を巻きつけたものなど、千種ほどもあるようです。婚礼以外のお祝いには花結びを用います。端を引くと簡単に解け、何度も結び直せるところから繰り返したいお祝いごとに使います。花結びというのは花を添えていた名残で蝶結びとも呼ばれます。
水引ではなく、印刷の熨斗袋にもお洒落なものがいろいろ。あれこれ選ぶのも楽しくなってしまいます。
春を開く季節に迎える卒業。「おめでとう」の言葉を添えて熨斗袋を渡せば伝えたい"心"もしっかり届きそうですね。
熨斗袋はもちいどの商店街にある紙の専門店
「藤田芸香亭」
TEL:0742-22-2082(木曜休)