暮らしの歳時記 4月(卯月)
最新号へ次の号へ前の号へ
花見
若草山のさくら
 四月は卯月桜咲く月。うららかな日差しに桜の蕾はほろほろ解けて、薄紅色の花を開きます。桜前線の北上がニュースとなり、開花情報に心踊る頃。花が咲けば気になるのが桜雨。桜餅食べて、桜湯飲んで、今年のお花見はさて、どこへ?

  桜は日本人にとって心の花。遥かな昔から人々は桜に想いを寄せてきました。ほんの束の間、存分に咲いて、惜しげもなく散っていく儚い姿もまた、心を捉えるのでしょうか。
桜の語源は「古事記」の中に記される木花佐久夜毘賣(このはなさくやひめ)の佐久夜が転訛したものという説と早苗や早乙女など稲作に関わりのあるサと神座など神の依代であるクラが結びついてサクラとなったという二つの説があります。種蒔桜、田打ち桜、苗代桜、麻蒔桜など名付けられる桜は各地にあるようですが、これは桜の開花が農作業の重要な目安になっていたからです。実りがそのまま命をつないでいた時代、豊かな収穫への願いはどれほど強かったことでしょう。南方の植物である稲を北限の地で育てるためには、太陽の運行や季節の見極めが最重要課題。枝いっぱいに花をつける桜の姿は豊かな実りの予感として人々を励ましてきたのです。桜の下では神と人とが一体になっての神事が行われていたのでしょうか。サクラ、サケ、サカズキ、サラ、サカナなど神とのかかわりをもつものにサの字が与えられているという説もあるようです。桜が咲くと気持ちが弾んで花見の宴を開きたくなるのは遠い祖先のDNAが作用しているのかも知れませんね。

  四季の変化に恵まれた日本では桜が春を告げる象徴でもあります。暦や時計が整っていない時代、桜の開花は一年の活動を告げる合図でもあったのでしょうね。人々が心を託してきた桜には必ず手をかける人がいて、守られてきたのです。

  "いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな"と歌ったのは伊勢大輔。百人一首でも知られるこの歌には、奈良時代、聖武天皇の頃に見つけられた八重桜が、平安時代の宮中で話題となったエピソードが歌われたものなのです。紫式部などの女房が仕えていた一条帝の中宮彰子は、興福寺境内にあるという八重桜の噂を聞き、宮中の庭に移すようにと使いを出します。並ぶもののない権力者藤原道長の娘である彰子の願いですから、早速荷車が仕立てられました。興福寺の桜を荷車に積んで運んでいると僧兵たちが追いかけて来て「命に代えても渡さぬ」と立ちはだかったのです。この悶着が宮中に伝えられると中宮は「荒くれだと思っていた僧兵にも花を愛でる心があったとは」とその心根を褒め、花を返すのはもちろん、伊賀上野の荘園を与え、花守も遣わすことにしたのだと伝えられています。以後、伊賀上野の荘園は花垣庄と呼ばれ、今でも花守の子孫が奈良の八重桜を霊木として守っているとか。興福寺では、花を返した中宮へのお礼と桜の枝を宮中に届けました。その時、桜の歌を詠むようにと促されて詠んだのが伊勢大輔です。奈良の八重桜は奈良に咲く八重桜全般のことではなく、ナラノヤエザクラという種類の桜。すべての桜の後を飾って咲く花は、葉の陰に上品な花を咲かせます。蕾の時は濃い紅色、咲くと淡い色になり、散り際には再び色を深めるというけなげな桜。奈良公園、東大寺、奈良国立博物館、奈良県庁前駐車場などに咲きますから、探してみては如何でしょう。

  歴史に包まれた奈良の桜は吉野を筆頭に各地で絢爛たる花絵巻を繰り広げます。桜を訪ねる時に持ってみたい素敵なバッグを見つけました。麻素材のバッグは涼やかで何より軽いのが嬉しいですね。花見には桜柄を避けるというのが古くからの美学でした。本物の桜に勝るものはないのですから。こんなやわらかな若草色なら桜を引き立ててくれることでしょう。季節は春、新しいことを始める時のバッグとしても活躍しそうです。
山笑ふ
田螺
春の海
貝寄風
写真をクリックすると記事をご覧頂けます。
今年の桜はどこへ見にいきましたか。特別にお花見というわけにはいきませんでしたが、住宅地の遊歩道の桜、とてもきれいでした。それから公園にある一本だけの桜も。
日本人は桜好きといいますが本当ですね。どこの名所も桜見物でいっぱいの人出。そう言いながら、私もその一人だったのですが。
散歩していると花盛りの庭が目につきます。とりどりの色で飾った庭や色を揃えた庭、住む人の好みがうかがえて微笑ましくなります。狭い露地に並べた鉢植えに苺が色づいていたりするのも楽しいものです。
春の雨があがった頃、神社の境内へ行くと木や土、そして枯葉が土へ還ろうとしているというのでしょうか、それらがないまぜになった匂いが立っていました。体に染み通っていくような豊かな匂いでした。香水ではけっして作れないような。
草引きをしているとその際限のなさには驚くばかり。三日見ぬ間の庭の草といったところです。こちらも妙にファイトが出たりしています。
4月から再びお稽古事を始めます。何って?それは、ちょっと形になったらお知らせしましょう。春ですねえ。
Copyright© Kansai Creative.inc All Rights Reserved.