風鈴、打ち水、線香花火…。身の置き所もない暑さにせめてもの涼をと昔からさまざまに工夫してきました。近頃はエアコンがどこに行っても効いていて、時には寒いことさえありますけれど。先日、ラジオでオペラ歌手の錦織健さんが健康法を尋ねられて、自室だけは暖房も冷房もしないのだと話しておられましたが、クールビスも極まれり、という感じです。暑い夏にはしっかり汗を流すという当たり前のことが結局健康的というのは、考えると皮肉なことですね。人間が快適を求めた結果、健康を損ねることになるとは。
昔がなにもかも良かったわけではありませんが、気がついたら伝統の良さを暮らしの中からすっかり捨てていたのではちょっと残念。
この頃は、日本的な良さへの見直しが見受けられるようになりましたが、快適を求めて一周、原点へ戻った感じがしないでもありません。もっとも、全く元に戻ったのではなく、らせん状というのでしょうか、ちょっと時点が違うようです。
浴衣の流行もそのひとつといえるかも知れませんね。夏祭りや花火大会などでは浴衣姿を良く見かけます。昔なら藍染がほとんどで、その中にちょっと差し色のものでしたが、最近は彩りも華やかな、まるで古典的な着物柄やモダンアートのようなものまでさまざま。見るだけでも楽しいものです。
浴衣の時に履くのが下駄。この下駄も健康的だと注目を集めているようです。靴のように外側から締め付けないので外反母趾にはならないし、指で鼻緒を挟むことで適度なツボの刺激にもなるのだとか。最近では裏にゴムを貼ったものや二本歯ではなく草履形が履きやすくて人気だそうです。でもカランコロンと鳴る昔ながらの下駄もなかなかいいものです。

奈良町には古くから続く下駄屋さんがありますが、ここでの下駄の話はなかなか面白いものでした。下駄を履きなれない若い人がまず一番困るのが鼻緒で足が擦れることだそうです。これは鼻緒にも問題があると説明してくださいました。つまり、鼻緒の縫い目が一つだとちょうど鼻緒の裏側、足に当たる部分にきます。すると縫い目に当たって足が擦れてしまうのです。この店では縫い目が両側にくるような仕立てになっています。そして、鼻緒は履く人に合わせて挿げてくれるのです。
昔はどの町にも下駄屋さんがあって、いろいろアドバイスをしながら選ばせてくれましたが、下駄そのものを知っている人も少なく、間違った下駄選びをすることになってしまうのでしょうか。靴ならシュ―フィッターのいるお店も増えましたが、下駄フィッターのいる下駄屋さんは少なくなるばかり。日本では弥生時代から使われていたという下駄、ちょっと見直してみたいですね。