秋の空は高々と澄んでいて気持ちのいいものです。雲も刷毛でさっと描いたような薄く軽やかですから、空の高さを引き立てます。でも変わりやすいのも秋の空。ある統計では10月に1ミリ以上の雨日数を調べると10日あったそうです。これは3日に一度は雨の日ということですね。変わりやすい天候を「女心と秋の空」などと変わりやすいものの例えになっていますが、本来は男心が正しいのだとか。広辞苑を調べると確かに「男心と秋の空」とあり“変わりやすいもののたとえ”と書いてあります。

どうして、「女心」になってしまったのでしょう。劇作家の宇野信夫さんは歌劇「リゴレット」の中で“風の中の羽根のように、いつも変わる女心”と歌われたことから、いつの間にか男から女に変わったのでは、と書いています。女でも男でも変わりやすいのは心ということでしょうか。
秋雨前線がかかると、うっとうしい気分になります。春の雨なら一雨ごとに暖かくなって木々の芽も膨らんでいきますが、秋の雨は次第に冷たくなって、どことなく哀愁を感じさせられます。今年は、日本にもアメリカにも大型化した台風がやってきて、驚きました。奈良は幸いにも大したことがなくほっとしましたけれど。先日、リタイア後に趣味を兼ねて農業を始めた友人と話していましたら、「今年の台風は奈良には来ないと思う」と言います。理由は蜂の巣が軒ではなく外に作られているからというのです。台風がやって来る時は軒の下に作るのだそうです。先端の機器を備えた気象観測所より蜂の方が的確な判断ができるとは、とその不思議が話題となりました。蜂の感性を信じて、今年はちょっと安心して秋を迎えられそうです。
10月は実りの月。台風で台無しにならないことを祈るばかりです。一年中、何でも揃うスーパーでもやはり10月になると果物売り場の彩りが違います。リンゴ、梨、葡萄、柿、イガつきの栗もありました。保存の技術が進んだとはいえ、新リンゴは歯ざわりも風味も違いますね。舞茸、シメジ、椎茸などいつも目にする茸の中に松茸がお目見え。生産地を見ると中国、北朝鮮、韓国などはるばる運ばれてきたのですね。日本産はすっかり高級品になって庶民の食卓にはなかなか登場していただけません。松林が少なくなったことが原因だといいます。松くい虫の暴れ方も酸性雨などさまざまな環境悪化のひとつなのかもしれません。環境問題が改善されると、日本産松茸が庶民価格で出回るのでしょうか。どんなに小さなことでも、できることから環境へ負荷をかけない努力を重ねることが大切なのですね。松茸のためにも、努力してみましょうか。

実りの秋といえば、新米の味を忘れるわけにはいきませんね。炊きたてご飯の美味しさはやはりこの季節の筆頭ではないでしょうか。最近は、土鍋のお釜が人気だそうで、炊き上がりが全然違うとか。「おいしくて、おかずが要らない」なんて聞くと、一度試してみたくなります。
10月、少し足を伸ばせば、稲刈り風景に出会います。実りの季節の活気は穏やかな喜びが含まれていて、見ていても気持ちがいいものです。春の伸びやかな歓喜とは違った穏やかな安心感が10月という月ではないでしょうか。