暮らしの歳時記 4月(卯月)
最新号へ次の号へ前の号へ
唐招提寺の蓮

歳時記
 季語という季節を象徴する美しい言葉を作り上げた俳句。俳聖として近世文学に大きな足跡を残した松尾芭蕉は生涯で5回、奈良を訪れています。芭蕉の目に奈良はどのように映ったのでしょうか。季節を追いながら芭蕉の句をみていきましょう。
  桜の花が終章を迎えると風光り、風薫る五月。百花繚乱のこの頃は、梅雨を迎えるまでのつかの間、最も美しい季節でしょう。生まれたばかりの新芽は日々色を深め、新緑となって輝きます。

  この句には“招提寺鑑真和上来朝の時、船中七十余度の難をしのぎ給ひ、御目のうち潮風吹き入りて終に御眼盲ひさせ給ふ尊像を拝して”と添え書きされています。この句は元禄1年、芭蕉45歳の時に故郷伊賀から奈良、吉野を訪問した折に詠んだものです。桜の頃に伊賀を立ち、吉野を巡って西ノ京に着いたのは若葉の頃。風に光る若葉で鑑真の目の雫をぬぐって差し上げたいという、あまりにも有名な句です。若葉と雫が呼応して、若葉の瑞々しさが目に見えます。
初詣
若水
松の内
写真をクリックすると記事をご覧頂けます。
メールにもちょっと時候のあいさつ
5月のことを皐月(さつき)って言うでしょ。これは早苗月からの言葉なんだって。知りませんでした。もう田植えの季節なのね。
早朝散歩、気持ちのいいものです。鳥の鳴き声で名前が分かるようになりたいなあ。そういえば10日から16日まで愛鳥週間だって。
5月9日は母の日。子供たちが幼稚園の時に描いてくれた私の絵、今も大事にとっています。今年は出して飾ってみようかしら。
紅葉で有名なお寺へ行ったら、楓の新緑のきれいなこと。体も心も爽やかな緑に染まってしまうほど。楓って紅葉もだけど新緑も本当にきれいなんですね。
今年はガーデニングに、と言っていた人、早くも雑草引きでいやになったとか。三日見ぬ間の桜と言いますが、三日見ぬ間の雑草かもね。
大きな鯉のぼりを揚げて、喜んでいるのは子供と夫だけと友人が話していました。雨が降ると大急ぎで入れなければならないし、出かけていてすっかり濡れた鯉のぼりは重くて、となかなか大変みたい。今年は窓から小さいのを出すんだって。

東大寺二月堂のザクロ
  鑑真は、唐時代の高僧です。揚州大明寺の律僧として戒を授けられた者は4万人に及ぶといわれた戒律の第一人者でした。天平5年、聖武天皇の命を受けた遣唐使の懇請を受けて来日を決意したようです。遣唐使は長屋王から預かった袈裟千枚を贈ったといわれています。その袈裟には「山川異域 風月同天」という詩が刺繍されていたと伝えられています。「山や川は国によって形も異なるけれど、佛教を求める心は遠い日本でも同じだ」という意味でしょうか。鑑真はこんな皇子がいる日本なら、ぜひ行きたいと思ったと伝えられています。また、当時僧でありながら、道や橋を作り、民衆の中で仏道を広めようとした行基が菩薩の生まれ変わりだという話も伝え聞き、会いたいと願ったのも来日への動機となったようです。こうした深い思いによって来日を決意した鑑真は5度の失敗にも諦めず、苦難に耐えて海を渡ったのです。鑑真一行が日本に着いたのは十二年後のこと。鑑真の愛弟子二人は没し、自身も失明してしまいました。初志を貫き、鹿児島に漂着したのは天平勝宝5年(753)、鑑真は66歳になっていました。
  鑑真があと2年早く来日していたら、東大寺大仏殿の開眼大導師の役は間違いなく鑑真が果たしていたことでしょう。鑑真は東大寺で聖武上皇、光明皇太后、孝謙天皇に戒を授けた後、500人もの僧にも受戒しました。東大寺戒壇院を建てた後に西ノ京の新田部親王の旧宅地を与えられて、唐招提寺を開き、学僧たちに戒律を講じたのです。鑑真は天平宝字7年(763)5月6日、結跏趺坐のまま76歳の波乱に満ちた一生を終えました。
尊像に向かいながら、芭蕉には涙が見えたのでしょうか。深い崇敬の思いに頭を垂れる芭蕉の姿が見えるようです。外は明るい日差しが溢れ、緑が薫る季節。しかし、お堂の中には千年の時間が漂っていて、鑑真も生きているように思われたのかも知れません。
  鑑真の像は、開山堂に安置されていましたが、昭和39年に旧一乗院の遺構を移した御影堂に移されました。鑑真を取り囲む襖には東山魁夷画伯による海の絵が描かれ、波の音が堂内に響くようです。東山画伯は、うちわまきの絵うちわにエッフェル塔の絵に「風月同天」の言葉を添えて奉納されたそうです。「若葉して」の句は、開山堂で詠んだということで、開山堂の石段のそばに句碑が立っています。
この句の前には「潅仏の日に生まれあふ鹿の子哉」が記されています。潅仏会は4月8日ですが、旧暦ですから、ちょうど若葉の頃。奈良公園のあたりで生まれたばかりの鹿の子を目にしたのですね。若葉の季節は新しい生命が躍動する季節でもあるようです。
5月19日は中興の祖である覚盛上人の威徳をしのんで「うちわまき」が行われ、1年の息災を守るといわれる「うちわ」をいただこうと大勢の人が集まります。
6月5日から7日は開山忌として御影堂が開かれ、鑑真和上像も公開されます。
Copyright© Kansai Creative.inc All Rights Reserved.